初対面の女の子とラブホに行った思い出

 村上春樹の『風の歌を聴け』よろしく、視点をころころ変えながら、思い出を述べてみる。

 いつものようにお昼ご飯を一人で食べた俺は、まだ昼休みが終わるまで30分ほどあることを知り、本屋に入って立ち読みをする。バイトに入って3ヶ月。一緒にお昼ご飯を食べる同僚も出来ぬまま、早めにバイト先に戻っても気まずいので、俺は時間をつぶすために本屋に入っていた。

 自分は相変わらず非社交的だな、と思う。そして毎度の如く、続けてこう思うのだ。「あぁ、こんな俺と親しくしてくれている僅かな人たちは、皆優しいよなぁ」と。俺は1個下のカスミの顔を思い出す。カスミはいい女だよなと、俺はぎこちない笑顔を浮かべながら初対面のカスミに告げていた。

 カスミとは某SNSで知り合った、1個下の女子大生だった。非社交的な俺が女友達を作るためには、インターネットを駆使するしか方法がないのは言うまでもない。

 カスミは初対面のあの日、「彼氏と別れちゃいそうだ」と言って涙を堪えていた。そう、レストランで、「『ミノリ』って本名なの?」と尋ねる俺にも浮かない顔をし、彼との喧嘩話で乙女の顔を見せていたのだ。それなのに、あの日カスミが移動した先のラブホテルで俺のイチモツを咥え、「交通費」と称して俺がカスミに1000円渡していたのは、どういうことだったのだろう。人の悲しい気持ちに漬け込んだ罪悪感に耐えられず、俺は「交通費」と称して、僅かなお金を渡したのだろう。

 思い出すのも億劫だ。あれ以降、恋人関係でもないのに多分1度性的関係を結んで、それでもなお、軽い友達関係が続けてくれているのだから、カスミはとても優しい人なのだろう。

 その後カスミは大学を留年し、今はいわゆる水商売のお店でバイトをしている。あんなに優しいカスミが不幸になることは絶対にあってはならないと思う。他方で、俺がカスミの幸せに貢献出来ていないことを苦しく思う。

 タバコは嫌いだ、と熱く語っていたカスミが、カラオケ店でタバコをふかしている。人は変わるもんだな、と俺が笑うと、カスミは、そんなもんだよ、と無機質に述べた。俺も人を幸せにできるように変わらなければと、心の中で思った。

 さて、時間だ。飲食店等ではバイトが出来ぬ俺は、今日もまた、予備校の裏方のバイトへと向かう。あと5時間の辛抱だ。